未熟な想念 ☽︎︎.*·̩͙…5
日も暮れる頃
二人の行者が 御巫の住まいを訪れました
年老いた行者が 御巫を見て言いました
そなたには 邪気悪鬼が
群れ成してしがみついておる
私が祓ってしんぜよう
行者は 必死で印を結び 真言を唱えましたが
御巫に憑いた未熟な想念達は 一向に離れません
諦めた行者は
私の修行では足らぬようである
と 言い残し 去って行きました
それを見ていた 若い行者が言いました
御巫様は 何故
御自分で祓われないのですか
私の眼には 容易く祓われるだけの力を
お持ちであるように見受けられますが
御巫は笑って答えました
私は自分自身の事はわかりませんが
邪気悪鬼が しがみついていたとしても
一向にかまわないのですよ
行者は不思議に思い 聞きました
それは何故ですか
色々な苦難や 身体の不調に悩まされる事が
つらくは無いのですか
御巫は静かに答えました
たとえ 未熟な想念があったとしても
それは大神様に 許され
愛されているが故に存在すると
教えられました
誰にも愛されず 人々に忌み嫌われ
苦しい想いをされている 想念達で御座います
悪の御役を引き受けて下さっている
尊い方々を
いとうしくこそ想え
追い祓うなぞ どうしてできましょうか
私は 最後のひとかけらの 未熟な想念が
大神様の 御光の元に還るまで
そのお手伝いをして差し上げたいのです
御巫は 行者に 干し芋と水を半分差し出し
ここには
このような物しか御座いませんが・・・
そう言うと
自分の分の干し芋と水を 御神前に供え
手を合わせ 祈り始めました
御巫が祈っていると
村の童子が泣きながら訪ねて来ました
御巫は童子の眼を見ると
童子が何も話さぬ内に
供えた干し芋を 童子の手にしっかりと握らせ
母様と仲良く分けるのですよ
と やさしく微笑んで童子を見送りました
童子は何度も頭を下げ
宝物のように 干し芋を抱えて駆けて行きました
その時
行者には 餓えて命を落とした者達の魂が
喜びに涙しながら 神々に導かれ
昇って行くのが見えました
行者は言いました
私は 悪想念を忌み嫌い
人々が 救われる事ばかりを考えておりました
祝詞を唱え 神に頼り御導き頂く事さえも
特別に与えられた力であり
それが天命であると 勘違いしていたのです
悪を抱き参らせるとは
神に依存し 御導き頂く事ではなく
己が想い 言葉 行いにて
生命ある者も 想念のみになりた者も
我が身に助けを求める 全ての者達を助け
共に魂を磨くことなのですね・・・
御巫は黙って微笑みました
行者は御巫に深く一礼し
干し芋を御神前に供え 手を合わせました
私には この干し芋を頂く事はできません
どうかお困りになっている村の方に
御分け下さい
御巫は その干し芋を半分に分け
そっと 行者に差し出しました
村人の御身だけでは御座いません
私の御身も 行者様の御身も 同様に大切な
大神様に御借りした御身で御座います
皆が幸せになって欲しいと
和子様が 御泣きになられますから
この干し芋は 私と行者様でいただきましょう
行者は しっかりと
御巫の後ろに 微笑む 和子の姿を見ました
神人達の里より
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