極楽浄土 ☽︎︎.*·̩͙…6
翌日 行者は一宿一飯の恩義の為にと
御巫の畑を手伝う為に 家の外に出ました
見ると 昨日の童子が 鳥を抱えて
うれしそうに駆けて来ます
御巫様はいらっしゃいますか
ははさまがこれを持って行きなさいと
持たせてくれたのです
行者は困った顔で 言いました
残念だけれど 御巫様は
鳥は御召し上がりにならないと思うよ
童子は泣きそうな顔になって 聞き返しました
何故ですか 御巫様は鳥がお嫌いなのですか
行者は答えました
神様に御仕えされる方は
神様のいらっしゃる 御浄土に行く為に
四つ足を食べてはいけないと
教えられているのだよ
それを聞いた童子は
とうとう 泣き出してしまいました
その鳥は 村人が皆で 晴れの日の為に
大切に 慈しみ 育てて来た鳥でした
それを見ていた御巫は
慌てて 家の中から飛び出し
童子を しっかりと抱きしめて 言いました
随分と おつらい想いを なされたでしょう
この鳥は村人皆で 分け合って頂きましょう
行者は驚いて御巫に聞きました
四つ足を食べては
御巫様の御身が穢れましょう
神の逆鱗に触れましょうぞ
何故にそのような事をなさるのですか
御巫は 震える声で 答えました
行者様の言われる 浄土とは
何処にあるので御座いますか
私にとっては
思い遣り溢れる 童子や母親や村人が
自然を愛し 慈しみ 助け合い 住まう
この村が 浄土で御座います
身罷りた後の 己の浄土の為に
そのやさしき想いを 踏みにじる事など
どうして できましょうか
生きているのは
中今(いま)で御座いましょう
中今を大切に生き
村人の想いを大切にする事が
間違いであるとするならば
私は神の逆鱗に触れ
幽界に彷徨う事になろうと 構わないのです
村人が鳥を食べ
浄土に行けぬと言うのであれば
そんな浄土には 行きたくありません
私の神は 私の身の内に 御座します
たとえ 大神様が
救えぬ と のたまわれようとも
私は
身の内の神を信じます
行者は 御巫の想いの深さと
その潔い覚悟に触れ 拳を握り締めました
私に 皆様の膳の用意をさせて下さい
もし その事でめぐりを負うならば
私も 喜んで地獄に参りましょう
神人達の里より
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